相隣関係について(令和3年の民法改正)
令和3年の民法改正により、隣地の竹木の枝が境界線を超える場合には、一定の場合(竹木の所有者に枝を切除したにもかかわらず相当期間内に切除しない場合や、隣地の所有者が不明な場合)には枝の越境部分を自ら切り取ることができるようになりました。
これまでは、根については、土地の境界線を越える場合にはその根を切り取ることができるとされていたものの、竹木の枝については、竹木の所有者に、その枝を切除させることができると規定されるにととどまり、みずから切除することができるとは規定されていませんでした。
これまで、竹木等の越境は、空き家問題の一部を占めていたようで、この改正により、自治体担当者のクレーム対応の負担が減ったといわれています。
ところで、そもそもなぜ、枝は、勝手に自分で切ることはできず、根は、切ることができると定められていたのでしょうか。
これについては、枝は見た目等が重要であり所有者に植え替えの機会を与えるべきであるからということや、建物を建て替えるために土地を掘り返す場合、深い部分では、どの木の根が伸びてきているかわからず、隣地の木かどうかがわからないからなどといわれています。
ただ、隣地の所有者が分からない場合に、根は切ってもよいが、枝については裁判までしないといけないというのは不合理だと思いますので、この改正はよかったのではないかと思います。
相続放棄後の管理義務
令和3年改正民法により、相続放棄後の財産の管理義務については、相続放棄時に「現に占有」している相続財産に限られることになりました。
それまでは、相続放棄をしても、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされていました。
占有とは、自己のためにする意思をもって物を所持することです。
具体的には、自らの利益のために、物を自分の支配内におくことです。
そのため、空き家や、亡くなれた方が現に住んでいたような家については、「現に占有」していないとして、相続放棄をしても管理義務が生じないということが多くなりそうになります。
しかし、国土交通省等の通達では、対象の家屋に占有者自身の家財や荷物等を保管している場合や、対象となる家屋の鍵を保有している場合には占有者にあたる可能性があるとされています。
そのため、合い鍵等を持っているような場合には、注意が必要といえます。
相続登記の申請義務化について
令和3年改正民法・不動産登記法が公布され、令和6年4月1日に相続登記の申請義務化についての部分が施行されています。
これによって、相続により不動産を取得した相続人は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならないとなりました。
また、遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記をする必要があります。
正当な理由なく、3年以内に相続登記をしなかった場合には、10万円以下の過料の支払い義務を課せられる可能性があります。
不動産の登記は対抗要件(他人に主張する場合に必要になるもの)であり、所有権を取得するために絶対に必要なものではなかったことなどから、相続が生じても不動産の相続登記をしないこともありました。
ただ、それによって、相続登記がなされないまま、相続が数次にわたって続いたため、相続人が不明になったり、多数人の共有となってしまう事態が生じたため、相続登記が義務化されることになりました。
売却の必要がない場合には、相続登記等をしないこともありましたが、今後は過料の対象になりますので、相続があった際はお気をつけください。
自己破産と事業の継続
破産は、事業を廃業することを前提としています。
法人の場合は、破産手続きの終了により法人格が消滅するので、他に事業等を譲渡するのではなければ、事業は廃業することになります。
個人事業主の場合も、破産をする以上、事業を廃業することが前提となりますが、例外的な場合には、事業を継続することができます。
事業を継続することができる場合の典型例は、給与所得者と変わらないような形で個人事業を行っているような場合です。
事業の内容として、一人親方として働いており、仕事の道具等は元請けが用意してくれており、仕入れや外注先への支払い、労働者への支払い等の債務が発生するものではない場合には、比較的、事業を継続しながらでも破産手続きを行うことができる場合が多いです。
逆に、仕事の道具等を自分が持っている場合には、差押禁止財産に該当しない場合には、破産手続きにおいて、換価・配当の対象になる可能性があり、事業の継続が難しい可能性があります。
また、仕入れや外注等への支払いがある場合には、その債務が破産債権となってしまい、支払いができなくなってしまうので、事業の継続が難しくなります。
ただ、実際に破産しても事業を継続できるかどうかは、具体的な事業内容や資金の流れ等をみてみないと判断がつかないことが多いです。
詳しくは、弁護士等の専門家にご相談ください。
債務整理の直接面談義務
1 債務整理の直接面談義務
債務整理については、過払い金の問題等もあったことにより、一時期、大量の相談がなされたことがありました。
その際、依頼者に十分な説明をしない等、問題のある対応をする弁護士がいたため、日本弁護士連合会は、債務整理事件処理の規定を定め、弁護士に債務整理事件を受任し、処理していくにあたり、一定の義務を課すことになりました。
そのうちの一つとして、直接面談義務は定められました。
2 直接面談義務の内容
直接面談義務は、債務整理事件処理の規律を定める規程の第3条に定められています。
その中で、弁護士は、債務者と直接面談し、債務の内容、債務者や生計を同じくする家族の資産、収入、生活費等の生活状況、不動産を所有している場合にはその処理についての希望、その他の債務整理の事件処理についての希望について確認する必要があるとされています。
3 例外
なお、同条第1項但書きでは、面談が困難な場合には、受任時に面談をしないことを許容することを前提とする規定を置いています。
そのため、面談が困難な事情があるような場合には、必ずしも面談をしなければならないということはありません。
しかし、そのような場合でも、面談を困難とするような事情が消滅した場合には、速やかに直接面談しなければならないとされています。
4 直接面談義務を不要とする弁護士には注意が必要
直接面談義務に反し、面談せずに債務整理事件を受任した弁護士は弁護士会から懲戒処分を受ける可能性があります。
そのため、直接面談せずに、債務整理事件を受けるような弁護士には注意が必要です。
経営者保証ガイドラインの続き②
経営者保証ガイドラインを利用して債務整理を行うメリットとしては以下の点が挙げられます。
① 代表者については、破産手続きをとる必要がないこと。
② 信用情報、いわゆるブラックリストに登録されることがなく、ローンを組んだり、クレジットカードを使い続けることもできること。
③ 債権者との合意によって、破産した場合の99万円以下という自由財産に加えて、一定の資産を残せる可能性があること。
④ 個人の債務についてはそのまま支払っていくことができるので、住宅ローン等も支払いを継続することができ、特にオーバーローンになっているなど価値が低い場合には、住宅ローン以外に担保にいれていなければ、住宅を残せる可能性も高いこと。
ただ、経営者保証ガイドラインの適用を受けるためには、主債務者や保証人が誠実に弁済してきたこと、負債を含む財産状況を適時適切に開示してきたこと、債務者に破産の場合の免責不許可事由がないことが必要です。
また、②についてですが、自由財産の枠を超えてのこすことができる資産をインセンティブ資産というのですが、これは文字通り、早期に廃業し、債権者への配分を多くすることのインセンティブのために認められています。
そのため、インセンティブ資産が認められるためには、早期に破産等に着手したことにより、資産の散逸、劣化を防ぎ、将来破産した時と比べて債権者の回収可能額が増加したといえることが必要です。
したがって、経営者保証ガイドラインを利用して債務整理を行うためには、早期に、弁護士等の専門家に相談することが必要になります。
経営者保証ガイドラインの続き①
- 債務整理時の経営者保証ガイドラインの考え方は、次のようなものです。
- これまで、経営者が保証人になっていたため、事業を廃業すると、保証債務の返済を求められ、経営者個人が破産したりせざるを得なかった。
- そのため、事業継続が難しい場合にも、経営者個人の破産を避けるため、廃業についての意思決定が遅れてしまうことがあった。
- そのようなことを防ぐために、事業継続が難しい場合に、早期に廃業したりするメリットを経営者に付与することにより、経営者に早期の事業再生、早期の廃業の意思決定がなされるようになる、というものです。
- そのため、経営者保証ガイドラインを利用した債務整理の場合、経営者は破産等の法的手続きを避けることができるだけでなく、早期に廃業の意思決定をしたことにより、事業を継続したよりも資産を残存させた場合には、その残存させた財産の範囲において、破産手続きの自由財産の範囲に加えてインセンティブ資産として財産を多く残せる場合もあります。
- このように、経営者保証ガイドラインを使って債務整理を行う場合には、単に、破産をしなくて済むというだけでなく、破産よりも多く財産を残すことができるというメリットを受けることができる場合もあります。
- 弁護士法人心では、経営者保証ガイドラインについての相談も、債務整理の相談の一環として、原則無料で承っております。
- 経営者保証ガイドラインについて興味がある方は、ぜひ、お気軽にご相談ください。
経営者保証ガイドラインについて
- 「経営者保証ガイドライン」というものを聞いたことはありますか。
- 「経営者保証ガイドライン」とは、中小企業庁と金融庁が共同で設置した研究会「中小企業における個人保証等の在り方研究会」の「中 小企業における個人保証等の在り方研究会報告書」の具体化として、行政当局の関与の下、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で設置した「経営者保証に関するガイドライン研究会」が策定したもので、2014年2月1日から適用が開始されています。
- この「経営者保証ガイドライン」は、融資の際に経営者保証を求める際のルールという面もありますが、弁護士にとっては、廃業時に、経営者の保証をどのように処理するかという点について、破産以外の道を開いたいうところが大きいです。
- これまでは、会社が破産する際には、経営者は会社の融資についての保証人になっており、その返済を求められるため、破産せざるを得ないということが多かったです。
- 「経営者ガイドライン」に従って債務整理をすることができれば、経営者は破産することなく保証債務について減免を受けることができ、経済的再生を遂げることができます。
- 詳しい内容については、また、別の機会に説明できればと思います。
- また、「経営者保証ガイドライン」について興味を持たれた方は、ぜひ、弁護士等にご相談ください。
過払い金が発生する時期
消費者金融からの借入やクレジットカード会社のキャッシング取引(お金を借りる取引)については、昔は利息制限法の利率(10万円未満について20%、10万円から100万円未満について18%、100万円以上の場合には15%)を超える利率で貸付を行っており、そのような利率で返済をしていた場合には、払いすぎたお金を過払金として返してもらうことができます。
ただ、銀行からの借入やクレジットカード会社のショッピング取引(物を購入した際の立替払い)のリボ払い等については、法定の利率の範囲内のため、過払金は発生しません。
また、消費者金融やクレジットカード会社が利息制限法を超える利率で貸付を行っていたのは、貸金業規制法にみなし弁済という規定があったからです。
この規定は22年の改正によってなくなっていますので、それ以降に過払金が発生することはありません。
実際には、平成18年に最高裁の判決で、みなし弁済の適用を否定する判決がでているので、おおくの業者は平成19年から平成20年の間には、新規の貸付については利率を利息制限法の利率の範囲内に下げています。
そのため、過払い金が発生するのは、平成20年以上前から、消費者金融からの借入や、クレジットカード会社のキャッシング取引がある方になります。
過払い金返還請求権についても時効がありますので、そのような時期から消費者金融から借り入れをうけていたり、クレジットカード会社のキャッシング取引があった方は、早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。
財産開示手続き
財産開示手続きについてのメモの続きです。
裁判所から財産開示手続きの呼出状が届いた場合には、弁護士にご相談ください。
5 期日が開始されると開示義務者は、財産開示期日に出頭し、宣誓の上、日々の暮らしに必要な生活必需品を除き、債務者の財産について陳述しなければなりません。
6 財産開示期日には、原則として、裁判官が開示義務者に質問することになります。申立人も裁判所の許可を得て質問をすることもできますが、債務者の家族の収入等についての質問等は、債務者の財産調査に関係ないので、そのような質問をすることは認めれられません。
7 なお、債務者が、期日に出頭できない場合には、裁判所の判断により変更されることもあります。
8 財産開示の申立ては、3年以内に財産開示期日でその財産を陳述していた場合には、原則、財産開示手続きを実施する旨の決定をすることはできません。ただ、債務者がその期日で一部の財産を開示しなかった場合や、財産期日の後に新たな財産を取得したときや、財産開示期日ののちに債務者が退職した場合には、例外的に財産開示手続きを実施する旨を決定をすることができます。
9 債務者が、呼び出しを無視したり、出頭しても宣誓の上で虚偽の陳述をしたり、宣誓を拒絶した場合には、刑事罰(6月以下の懲役または50万円以下の罰金)を受ける可能性があります。